月下百鬼道中 1.【とある男の話】
夜闇の中、月下に集いしは百鬼。
この世の悪行と呼ばれる全てを、果たし尽くしたもの。
人々が忌み嫌い、同時に恐れる恐怖の象徴。
そんな百鬼が、にたついた笑みを浮かべ見据えるその先には、一人の男がいた。
その身は既に、満身創痍。
膝をつき、片腕は絶たれ、無数の傷からとめどなく血が溢れ、流れ落ちゆく鮮血に、その身は赤く染め上がり…その姿は誰が見ても死に体だった。
だが…それでもなお、男の瞳は煌々と輝き、百鬼を捉えていた。
男は声を張り上げ、百鬼に向け言い放った。
体中に激痛が走る。それでも、言わねばならなかった。折れて短くなった一振の剣を、残った片手で持ち、百鬼に突きつけた。
ーーーその魂に刻め、この名を…!
体を震わせ、血反吐を吐きながら、男は一つの名を高らかに吠えた。
ーーーこの名のこそ、お前を打ち倒す剣士の名だ!!
それが、人知れずその身一つで悪逆非道の百鬼に立ち向かった男の、最後の言葉だった。
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