2020.08.22 02:23月下百鬼道中 3.【Silver Cradlesong】 1.招待状 魔狼と出会い、氷の化け物と戦ったあの日から数ヶ月、僕の身体はもうすっかり完治し、仕事に張り切っていた。 今は朝のひと仕事を終え、僕はシュリンガー公国の酒場でローザと一緒に昼食をとっている。 今日のお昼はアヒージョとパン、それと根菜のスープだ。アヒージョは油で具材を煮込む料理。オ...
2020.08.02 01:22月下百鬼道中 2.【月下の出会い】 10.帰還 暗い。ここはどこだろう。何かの乗り物に乗っている?体の色んなところが痛い。でも…風が気持ちいい。 目を薄らと開けてみる。白い毛並み。見覚えのある毛並みだ。…あぁ、そういえば助けてもらったんだっけ…。「……ありがとうね。」 再び目を閉じながらそう呟く。「ウゥ。」 返事が返ってきた...
2020.07.25 13:48月下百鬼道中 2.【月下の出会い】 9話 決着「………」 化け物はゆっくりとその巨体を起こしていく。 氷刃が叩き込まれた後、轟音は静まり、立ち込めた土煙が晴れていく。だけれどそこに僕とローザはいなかった。「けほっ…けほっ…」 化け物は声がした方向を向く。氷刃が振り下ろされた場所からは遠く離れたその場所で、僕は咥えられていた。...
2020.07.17 15:25月下百鬼道中 2.【月下の出会い】8話 会敵 丸岩のある場所を離れ、音がした【塔のある場所】へ向かう。【シュリンガー公国】から東にそびえたつ【時渉の塔】。この塔の噂は様々なものがある。ある教団が拠点にしているだとかなんとか、絶えず耳にする。 が、今は何より音の正体を確かめなければ。塔は高く切り立った崖に挟まれた道を進んだ先...
2020.07.03 12:14月下百鬼道中 2.【月下の出会い】 7話 月と薔薇 トッポの話をもとに丸岩へ続く一本道へ入るところにたどり着く。ここはトッポがいた滅びの村を出て南東に向かって平原を超えたところにあり、たどり着くと月は高く上って、もうすっかり夜になっていた。辺りは暗いが、今夜は雲一つなく月が明るいおかげか周りを見渡せないことはない。 この道の始ま...
2020.06.27 13:55月下百鬼道中 2.【月下の出会い】 6話 大魔王の助言「というわけで…何か知らないトッポ?」「~~~~!!…だからといって、どうしてこのトッポ様に聞く!人間のことなど知ったことか!帰れ!!」「えー、やだ。」
2020.06.23 14:50月下百鬼道中 2.【月下の出会い】 5話 出立 『氷の化け物』、と聞いて思い当たる物は僕の中にはない。一ヵ月一緒に旅をしてきたローザの方を見るが、彼女も存ぜずという顔をしている。 マリアさんは再びコーヒーカップを手にした。「あくまで噂ね。誰かがホラを吹いてるかもしれないし…あまり深刻に考えすぎないでね。このご時世、連邦も公国...
2020.06.21 04:09月下百鬼道中 2.【月下の出会い】 4話 噂 ゆっくりと瞼を開く。部屋は足元が見えないというほど暗くもなくうっすらと明るい。壁にかけてある振り子時計の、こち、こちとした音だけが耳に入ってくる。針を見ると6時前を指していた。 まだ、眠い。 もう一度寝ようか、そんなことを考えながら、剥ぎかけたシーツを被りなおしていると物音が聞...
2020.06.21 03:59月下百鬼道中 2.【月下の出会い】 3話 我が家 地図で見ると『アブル連邦』は、45度傾いた細長い大陸の西側の海岸、そのちょうど真ん中に位置する。『アブル連邦』はジョージ王という王様が統治する城塞都市だ。城壁に囲まれた街には、大きさが人の何倍もある風車や歯車が点在し街のシンボルになっている。街は隅々まで整備され、賑わいも絶えな...
2020.06.20 15:36月下百鬼道中 2.【月下の出会い】2話 始まりの思い出………試験だからと完全に油断していた。後ろから不意打ちをくらうだなんて。その意識の薄い中、声が聞こえた。「…ぇ…ねぇ…お…て!お…がい!」「ふん…しょ……このてい…か。」「ふいう…なんて!」「…このさき理不尽な事などいくらでもある。」「…そう、かもしれない…でも、だからと言って今...
2019.07.18 07:52月下百鬼道中 2.【月下の出会い】1話 帰郷 自分のお気に入りの場所。大抵の人は、安心することができて居心地がいいと感じる場所を、少なくともひとつは持っているように思う。実家、学校、はたまた酒場か。 僕の場合は、今座っているこの場所。所々積み木のように陸地が段々状に積みあがっている丘陵のひとつ、一番高いところで...
2019.03.24 03:46月下百鬼道中 1.【とある男の話】夜闇の中、月下に集いしは百鬼。この世の悪行と呼ばれる全てを、果たし尽くしたもの。人々が忌み嫌い、同時に恐れる恐怖の象徴。そんな百鬼が、にたついた笑みを浮かべ見据えるその先には、一人の男がいた。その身は既に、満身創痍。膝をつき、片腕は絶たれ、無数の傷からとめどなく血が溢れ、流...