月下百鬼道中 2.【月下の出会い】2話  始まりの思い出

………試験だからと完全に油断していた。後ろから不意打ちをくらうだなんて。その意識の薄い中、声が聞こえた。


「…ぇ…ねぇ…お…て!お…がい!」


「ふん…しょ……このてい…か。」


「ふいう…なんて!」


「…このさき理不尽な事などいくらでもある。」


「…そう、かもしれない…でも、だからと言って今!この試験で…人を殺していい理由にはならないっ!!!」


 その声はひどく震えていたけれど…力強い声だった。


「…威勢だけでは生きていけんよ。さて、残るはお前だけだが共に死ぬか?」


「……………ッ!」


ーーーー戦わなくては。この人を、守らなきゃ。


ーーーー動けっ…!!!


ーー頭の中でがんがんと音が鳴るみたいだ。背中に強烈な痛みが走るけど、何とか立てそうだ。


「ぐっ…!」


うめき声が出る。足元もふらついて倒れそうになる。けれど、そんな僕の腕をか細い指を持つ手が掴んだ。


「生きてた!よかったぁ…でもごめん、戦わなくちゃ……いける…?」


そう訊ねながら真っすぐな緑の瞳が僕を心配そうに見つめていた。


「……大丈夫。いこう。」


「うん!私の名前はローザ。一緒に戦おう!」


 はつらつとした声でローザと名乗った少女は僕の前に立った。危ないから援護を、なんて痛みの引かない体で言おうとしたけれど、そんな心配は次の瞬間消え去った。赤薔薇の髪が揺れた瞬間、敵の胴体に隙が現れる。持ち直した剣が、自然とその隙まで運ばれるような感触。そんなのは初めてで、驚きに溢れながら僕は剣を走らせた。

 それが何回か続いた後、敵の態勢が崩れ、そこへとどめの一撃。


「ローザ!!」


 戦いがあまりにもうまく進むものだから、彼女に対して変に親近感を覚えてしまって呼び捨ててしまった。けれど、彼女はそれに気持ちの良い返事を返してくれた。


「はい!!」

 

 雷を剣に纏って放つ協力技『ブリティッシュペーア』


「はぁぁぁ!!!」


 そして轟音が鳴り響き、試験は終わりを告げた。僕とローザは教会へ行き正式に冒険者となったわけだけど、それからばたばたと色々手ほどきを受けた後に、酒場の前でローザが少し不安げな顔で尋ねてきた。


「…ねぇ、君はこれからどうするの?さっきはエナさんに2人で一緒にお祝いされちゃったけど…その…別に2人じゃないとダメってわけじゃないし…その…」


 エナ、というのは先輩冒険者でツインテールの…活発…「漆黒の~~~~」とよくわからない喋りをするそれはとても活発な女性なのだが、その人の言葉をローザは気にしていた。

目が泳いでいる。断られたら…なんてことを考えているのだろうか。そんな不安げな少女に僕は少しおどけた感じで返事をした。


「………えーと、旅は道連れって言葉があってですね。」


「…?」


 言葉の意味が伝わってないようだ。ちゃんと言おう、うん。


「つまり、えー、一緒に来てくれると嬉しいかな、って。」


「…!うん!…じゃあ改めて!私の名前はローザ。『ローザ・ブラックベリー』です。よろしくね!君の名前は?」

 

 よっぽど嬉しかったんだろう。ぱぁっと周りの空気まで明るくなるような、そんな満面の笑顔だった。


「僕の名前はーーーー」

ーーーーーーその時、ゴトンッと視界が揺れた。


 はっとして辺りを見渡そうとしたが、首が痛い。どうやら公国で牛車に乗った後、中で変な態勢で寝ていたみたいだ。


「大丈夫?」


 微笑みながらローザが尋ねてきた。彼女は僕と対面の方向に膝を抱えて座っている。返事をすると、そっか、と言い、彼女は牛車の荷車に垂れ下がる布の隙間から外を見る。僕もつられてその先を見ると少し青みがかった城壁が見え始めていた。

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